上原スタイル 2017


PHOTO BY TOSHIHIRO SOBAJIMA
 
上原スタイル についての設計ノート
小田急線代々木上原駅から徒歩5分。戸数15戸の集合住宅である。部屋は正直広くない。ターミナル駅近にあるビジネスホテルの一室といった感じだ。でも広くない部屋かもしれないけど都心に近い豊かさを感じながら暮らす場所を設計する…それが上原の集合住宅における第一の問題設定だった。
ビジネスホテルは、その部屋にいることよりホテルがある場所、地域でビジネスなり受験なり観光なり活動するための基点だ。上原から近い場所、渋谷や原宿、代々木、新宿は正に常にアグレッシブな動きを感じる場所だ。そんな場所の近くにいる。部屋にいることも、部屋から出ることも良しと感じる場所を作りたい。プライベートと公共が両方程よく感じるというか、イイ塩梅で都心近くの豊かさを感じ取れるようなスケール感を設計、空間を構成する要素に置き換えることを考えた。
部屋が狭い家賃が高い、といった「都市に住む貧しさ」と、渋谷や原宿の賑やかさも代々木公園の緑の気持ち良さもある「都市の豊かさ」を秤にかけた時、それでも上原に部屋を借りてみたいなぁ、と思える空間を作りたかった。ビジネスホテル並みと言ったらホテルの方に怒られてしまうけど、狭い部屋でも豊かな気持ちで住みたい、住める環境設定と実際的なプランニングを検討した。隣近所の環境はもちろん、窓から見える都心の風景、公共の場所へと自分がつながっていることを感じる、自転車でも歩いてでも周りの環境とつながる場所、程よく空間が調整されていること。
この建物で一番大きな空間は、前面道路から敷地奥の裏庭へと突き抜けるエントランスのピロティと、最上階まで吹き抜ける階段室だ。ピロティや階段室が、敷地が持つ最大長さや最大高さ、あるいは外部へと突き抜けることで、敷地の中の空間以上の長さや高さを感じ取れることを意図した。またエントランスピロティから階段室へと連続するラワン合板の打ち放し壁に沿って歩くことで素材感からも長さや高さを感じたり、渦巻きのようにグルグル連続するスチールの手摺からも、公共の空間が小さなプライベートな場所へと調整されている。
体積より表面積が大きいというか、この小さな部屋の集まった集合住宅の中に大きな共用部を詰め込むこと、コートや革ジャンのようなアウターからセーターやシャツとなり、肌に直接身につける下着へと柔らかく、優しくなっていくように、またはその逆に感じ取れるように、外部と内部が連続的に身体的につながっていく場所をつくった。